センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

渡れない河に舟は出さない ②

新婚旅行の最後の夜、


私はホテルの窓から外のネオンを見下ろして


何を間違えたのかと途方に暮れていた。









部屋のテーブルにはビールの空き缶が数本と


そのおつまみが乱雑に置かれており、



彼はトランクス1枚で、


ベッドでいびきをかいていた。



お風呂から上がった私は、その光景に


ため息をつきながら、思い出していた。




仲人である彼の上司の元へ


結婚前の挨拶に行った時のことを。



挨拶が終わるやいなや、


彼の上司は口を開いた。



「彼、すごく飲みますよ。大丈夫ですか?」



そして、彼を見ながら、


「ちゃんと話してあるの?」


と冗談めかして続けた。



冗談めかした口調ではあったが、


そこには笑い飛ばせない何かがあった。



上司が彼の飲酒に対して、


好意的ではないという、


はっきりとした意志と


皮肉めいたものが感じられた。







新婚旅行の間、


どこへ行ってもビールを片手に笑う彼がいた。


昼でも 夜でも。


レンタカーを運転する身であっても。







若い頃、


私がよく行っていたカフェのマスターは


結婚相手を決めるときには


相手の運転を見ればいい、と言った。


貴方を乗せているのに、


乱暴な運転をするような相手は


辞めた方がいい、と。



彼の運転は乱暴ではなかった。


むしろ、慎重過ぎるほどだった。



しかし、


婚約が決まると、車を運転する日でも


彼はビールを欠かさなかった。






静かな夜に、キラキラ光るネオン。


私は泣きそうな気持ちと闘っていた。



これからどうすればいいんだろう?


たくさんの人に祝ってもらったのに


アルコールに依存する人と


どうやって暮らせばいいんだろう?



旅行帰りのタクシーの中、


私はもう、明るく振る舞うこともできず


暗い気持ちで外ばかり見ていた。







そんなふうに 


結婚生活は始まった。