センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

渡れない河に舟は出さない

「男と女の間には 深くて暗い河がある」


と歌ったのは野坂昭如氏だ。(黒の舟唄)



この歌が、


自分の結婚生活の中で


何度も何度もリフレインされるなんて


あの頃は思ってもいなかった。




結婚をひと月後に控えたある日、


私は初めて彼の家に招かれた。



義母も義姉夫婦もみんなが笑顔で、


婚約者となった私を迎えてくれた。



彼は割と無口だが、優しい人で


彼の家族も温かな雰囲気だった。



普段、おとなしい彼が


この日は上機嫌で、私をもてなすために


あれこれと気を遣ってくれていた。





和やかに時は過ぎ、


そろそろお開きの時間になる頃。



彼が私をもてなすための気遣いが


義母へのいくつかの指図となっていることに


気付いた。



そして、それが、


とても上からの指図で、


普段の彼とは違う一面を見たようで、


私は少し戸惑っていた。



義母の片付けを手伝いながら、


何か諦めのような冷静さを持って考えた。



ひと月後、これが逆転するのだ。



今日のこの日、


ちやほやと大事にもてなされる私は、


ひと月後には、


上から指図される立場になるのだ。



私は確信していた。






そして、


そのひと月後から


見事に私の確信が現実となっていった。



深くて暗い河のほとりに


私はひとりで立つことになったのだった。