センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

渡れない河に舟は出さない ③

結婚してひと月もすると、


私は見事に結婚前の義母と同じ立場になった。


私自身、結婚後も仕事を続けており、


朝は彼と共に6時半には家を出た。



ワイシャツはクリーニングに出すし、


お昼は外で食べるから、


と彼は言っていたのだが、


あっという間に私がアイロンがけをし、


毎日、お弁当を作ることになっていった。





早朝、5時前には起きて、お弁当と朝食の用意をし、


洗濯をして、ゴミ出しをした。


並びの住宅の2件先に犬を2匹飼っている家があり、


ゴミ出しのために前を通ると


うるさく吠えたてたので、


近所迷惑になると思い、


逆方向から、田んぼ一つ分を大回りした。


晩秋の頃で、まだ月が出ていて、寒かった。







彼に話しても、気にも留めず、


出かけるときに、車のトランクに載せて


ゴミ捨て場に寄って欲しかったのだが、


そうは言えなかった。





帰ってからも、すぐに晩の用意をし、


その間、彼はお風呂だけわかして、


布団を敷くと、テレビを見ていた。



食事が終わって、片付けを始めても、


彼はいつまでもビールを飲んでいた。


大瓶で3本。それが毎日だった。






片付けの合間に、お茶が欲しい、


おつまみが欲しい、アイスが食べたい、


と次から次へと指示が飛んだ。


彼は暖かい部屋でテレビを見ていて、


寒い台所で忙しく働く私のことなど


まるで気に掛けず、


それが当たり前の日常だった。



義姉は、彼がひとり暮らしが長かったので


何でもできるから楽だよ、と言った。


しかし、


彼は、日常の面倒くさいあれこれを


私にスライドさせることができたことに


上機嫌だった。


彼の上司や友人への年賀状さえ


自分で書こうとはしなかった。





私はもう既に疲れていた。



テレビを見る間も、新聞を読む間も


なかった。



休日には、当たり前のように


義姉夫婦が時には家族でやって来て、


大勢の食事の用意も私の仕事になった。



その食費も彼のビール代も


新婚家庭には重く、


足らないときには、自分の貯金を使った。





彼のアルコールの問題は


親族も会社の人たちも、全員が知っていた。


その頃はまだ、


きちんと話し合えば、改善されると


本気で信じていた。



けれど、


事はそんなに簡単ではなかった。


深くて暗い河は



 本当に 


  

 



 どこまでも暗くて深かった。