センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

心の距離は目に見えない ①

5年ほど前、私たちはある資格の養成研修で出会った。


トータルで5か月を超えるその研修は、想像以上に厳しいもので、仕事や家庭との両立、試験勉強や実地研修、と、いくら時間があっても足りないくらいだった。


その厳しい時間を共有した仲間は、ライバルではなく、同じゴールを目指すチームメイトだった。


30人ほどいた研修生の中で、たまたま席が近かった私たち4人は、常に助け合い、励まし合い、情報を共有した。


その厳しくも楽しかった研修が私たちの絆を強くし、修了後も時々会食を楽しんだ。


私たちはそれぞれ別の街に住んでいたが、研修をしていた街で集まるのが常だった。


3年ほど前だろうか。


新しく家を建てることになり、私はある街の展示場へと出かけた。

電車を乗り継いで、初めて行ったその街は思ったよりも遠かった。


帰りの乗り換えの駅で、


ふと路線図を見つけ、思ったよりも遠かったその街を更に先に辿っていくと、


そこに4人組のひとりの住む街の名前があった。


研修中の交通費の総合計が10万円を超えると聞いていたので、遠くから来ていることはわかっていた。


それでも、



今まで続く私たちの会食は、

いつだって研修が行われた街だった。


私たち3人には近かったが、もうひとりの彼女には遠かった。


私たちは、いつもその街で集まることを当たり前に思い、


遠くに住む彼女も

いつだってニコニコと私たちに合わせてくれた。


彼女は4人の中で1番年下で、控えめだけれど、いつも優しく、人に気遣いのできる人だったのだ。


その路線図を辿ったときに、初めて私は彼女がこんなにも遠くから、いつもいつも来てくれていたことに胸が痛み、


彼女の優しさに当たり前に甘えていたことを恥ずかしく思った。

それは、本当に遅すぎる気づきだった。




私たちはそれぞれに仕事を持ち、忙しくもあったし、コロナ禍にあってはなかなか集まることもできず、ラインでのおしゃべりがお互いの近況を知る唯一の方法だった。


この9月に私は退職し、教職に就いていた別の彼女も同時期に退職した。


同い年の彼女はいつもアクティブで、忙しい中でもあちこちに出かけ、観光地のきれいな景色やおいしそうな食事の画像を頻繁に送信しては、私たちを楽しませてくれた。


同い年の私たちは、退職で時間ができたし、コロナの感染も収まりつつある。


久しぶりに集まろうという話になった。




しかし、別のひとりはダブルワークでシフトの都合がつかず、どこか体調も万全ではないようだった。


「3人で行ってきて」と彼女は言った。


いつもは、4人揃わなければ先送りにするのだが、またいつ感染が広がるかもわからない。


私は、遠くに住む年下の彼女の街に行きたかった。

とりあえず健康で、退職で時間ができた私たちなら、遠くの街でも問題ない。


何より、

いつもいつも私たちに合わせてくれた年下の彼女に、今度は私たちが会いに行きたい。行くべきだと思った。


ライン上で、私はそれを提案し、

年下の彼女は遠慮しつつも、喜んでくれた。

そして、いくつか案を出してくれた。


しかし…


そこで同い年の彼女が別の案を出したのだ。


その遠くの街には、研修の同期の男性が住んでいた。


私たちは全員、彼をよく知っていたし、彼が企画した食事会にも参加したことがあった。


同い年の彼女はこの男性と個人的にも出かけることがあったようだ。もちろん色恋は関係ない。


この同じタイミングで、同い年の彼女は彼からお誘いを受けていた。彼の家での飲み会だ。


私たちにも声をかけて欲しいと頼まれていた彼女は、この久々の私たちの集まりとドッキングさせようと考えたのだった。


そして


その提案が


パンドラの箱をあけてしまう原因になるとは


このとき私たちは少しも気づかなかったのだった。





          続く