センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

糟糠の妻堂より下さず



欠礼はがきを書くために


夫の古い年賀状を見ていたら



「貧乏なとき かすや糠を食べて


 苦楽を共にしてきた妻を


 離縁したりなどしない」



という一文が目についた。


裏返すと そこには



「貧賤之交わり忘るべからず


 糟糠之妻堂より下さず」 後漢書


と大きく書かれている。



つまり


宛名面に書かれた文は


この後漢書の訳というわけだ。



年賀状の文言としては


いささか不似合な気がする。





この年賀状を受け取った頃


私たち夫婦は もう長く話もしてなかった。



お互いに もう心が離れてしまって


修復は難しいと お互いの関係を


諦めてしまっていた。



年賀状の送り主は


夫が可愛がってもらった上司である。



新婚の頃、家にお招きしたことがある。



夫もこの上司も びっくりするほど酒豪で 


だからこそ気が合ったのだろう。



達筆で書かれた後漢書の文言は


何かを察して書かれたものなのだと思う。



夫が離婚を考えて 


相談していたのかも知れない。



その年賀状には


寄り添う猪の絵が描かれている。



いたわり合う猪の夫婦だ。



夫はこの年賀状を見て 何を思っただろう。


私のように ドキッとしただろうか。



私たちは離婚こそしなかったが


この猪の夫婦のように



いたわり合う夫婦にはなれなかった。



その痛みは きっと夫にもあっただろう。


そして 今なお私は痛みを感じる。



私たちは苦楽を共にしてきただろうか。



もう その日々は遠すぎて


思い出すこともできない。