センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

「私の恥はどれほどか」





これは、NHKで2020年に放送された番組だ。


この年末にBSで再放送された。





アウシュビッツのガス室の周辺で


地中に埋められていた瓶や箱が見つかった。


その中には、経年劣化でインクのにじんだ


メモが入っていた。



見つかった当時に解析を試みたが


どうしても判読できなかった。



近年、デジタル技術が進化し


そのいくつかのメモが


判読される日がやって来た。




それは、ゾンダーコマンドと呼ばれた、


大量虐殺に加担させられたユダヤ人が


アウシュビッツで行われていたことを


世の中に伝えるために


祈りを込めて残した告白だった。






「移送」と書かれたメモには


ナチスが街にやって来て


アウシュビッツに移送を告げる日のことが


綴られていた。



街は 突然の望まぬニュースに


驚き、嘆き、泣き叫ぶ。



そして やがて 絶望的な静寂に包まれた。



このメモを残した人物の


幼い息子の言葉が胸に刺さる。



 「パパ、ぼくは死にたくない。


  何が何でもぼくを守って。」



そして、この父親はこう綴る。



「健康で溌剌とした小さな我が子を


 迫り来る死から守ってやるすべもなく、


 ただ涙を流すしかない状況が


 親にとって 


 どれだけつらく苦しいことか。」






死の選別が行われる中、


この人物は ゾンダーコマンドに選ばれる。



同じ仲間のユダヤ人を


ガス室へと誘導したり、遺体の処分をする、


そういう仕事を担わされたのだ。



このメモは こんな風に続く。



「幼い少年はこう言った。



  あなたたちもユダヤ人でしょう?


  仲間をガス室に送って


  自分だけが助かるなんて


  どうしてそんなことができるの?



                 」






しかし



彼の妻も 幼い息子も


何重にも積まれた遺体の中にいたことを


彼は後に知ることになる。




  「私の恥はどれほどか。」









ナチスはこの虐殺を隠すため


証拠となる物を全て壊し、焼却し


多くのゾンダーコマンドも殺された。



そして



同朋の大量虐殺に加担させられた彼等は


そういう自分たちの運命も知っていた。



「骨の髄まで突き刺さる恐怖」の中で


彼等は必死にこの告白を書き残したのだ。


誰かに必ず見つけてもらえることを


ただただ祈って。







平和なこの世に生まれて


穏やかに新春を迎えた私たちも



この悲劇が


決して過去に埋もれた歴史ではなく


今も 世界のどこかで


繰り返されていることを覚えておきたい。




私たちは 


ゾンダーコマンドが記したように


 「残酷でもなく、冷酷でもなく、


  ごくごく普通の人間」だが




心のどこかに


こうした悲劇に導く根っこを


必ず持っているものだ。



ゾンダーコマンドが遺した告白を


私たちは心に刻んで 


この新たな年を歩んでいきたい。