センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 夫の嘘①


夫の遺品を少しずつ整理している。




一人で暮らしていた夫の部屋は


ものすごい量のモノであふれかえり


文字どおり足の踏み場もなかった。



大半のモノは捨てたけれど


それでも次男がダンボールに3箱くらいを


家に持ち込んだ。



PCは使えない物も含めて5台。


タブレットも同じくらいある。



戦闘機やスター・ウォーズのプラモデルも


何箱もあった。


一つも作ってはいなかった。



ペーパー類も山ほどあって


その中に 夫が結婚前に購入した、


建売住宅の売却見積もりメモがあった。



新婚当時は私たちが住み、


後年は遠くの田舎に住んでいた義父母が


こちらに引っ越してきて住んでいた。



毎月のローンの半分は義父が払ってくれたが


わずかな頭金だけで、しかも高利率のときに


購入した家だったので



義父母亡き後は とても維持できなかった。



家の売却が決まり、


そこもまたモノにあふれた家だったので


夫が何日か泊まって整理することになった。



いよいよ明け渡しが迫ったとき


私も手伝いに行ったのだが



日にちにすれば1ヶ月以上も


整理のために泊まり込んだというのに



ほとんど何もやってなかった。


それはもう、唖然とするくらいだった。



いったい 


夫は泊まり込んで何をしていたのだろう?



しかし、唖然とする私ではあったが


どこか 想定内のような気もしていた。



夫は私たちから逃げていたのだ。



咎められることなく


街に繰り出して 美味しいものを食べて飲み


また、帰ってビールを飲む。



夫は家庭も欲しかったが


ひとりの至福の時間も捨て難かった。



私はいつしか 夫は家庭という枠の中で


ひとり暮らしをしている人なのだと


思うようになった。



それでも、


妻や子供が視界に入らない空間や時間が


彼には必要だった、ということだ。



何も片付いていない、


荷造りさえしていない家の中で



タイムリミットに気づいた私は


その憤りを原動力にして


ものすごい勢いで片付け始めた。



義姉夫婦がやって来たが


もちろん手伝いに来たわけではなく



「何か欲しいモノがあれば持って行って」


という夫の言葉でモノ探しに来たのだった。



これまで、何をしていたのだ?


分けたいモノがあれば


なぜ、今までに分けておかないのだ?



少なくとも


半分くらいは片付いていると思った私が


終始、不機嫌だったのは言うまでもない。



「順番に片付けてるよ、だいぶ片付いたよ」


「でも、まだ時間はかかるよ」



進捗状況を尋ねる私に


淀むことなく言っていた夫の言葉を



それが、至福の時間を確保するための


彼の嘘だったなんて 疑いもしなかった私は




そうして


何度も夫の嘘を 後に知ることになるのだ。