センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 貴方の「普通」と私の「普通」


昔、夫と結婚して しばらくしてから


「あれはびっくりしたな」と言われた。



何にびっくりしたのかと言うと


結婚前のデートでの食事だ。



私は大抵、夫と同じものを注文したのだが


それにびっくりした、と言うのである。



       はい?




つまり 女が男と同等のものを食べるなんて!


ということらしい。



夫によれば


「普通、女は男より下のものを選ぶもの」


 なんだそうだ。



   はい? 普通なの、それが?(*﹏*;)



今度は私がびっくりする番だ。




私が育った家庭は 両親が共働きで


父はなんでも平等だった。



男も女も 大人も子どもも 


平等に同じものを食べていた。



私は その「普通」しか知らない。


一種のカルチャーショックである。




夫の両親の実家はものすごい田舎で


本当に男尊女卑がはっきりした地域だ。



女は奥に引っ込んでおれ というのが


あたりまえの雰囲気だった。



夫が 女は下 と考えるのも無理はない。






まだ息子たちが幼い頃、


私はひどい風邪をひいたことがあった。



晩ごはんの支度ができないので


店屋物でも取ろう、ということになった。



夫が 「何が食べたい?」


と聞くので 「うどんかな」と答えると



即座に 「そんなもん食べたくない!」


と怒ったように言った。



「寿司にしよう。寿司が食べたい!」



結局、寿司の出前を取ることになった。



熱が出た病人は うどんくらいが良かったが


ここは譲るよりほかない。



今なら、


「だったら、聞くな!」と言いたいところだ。




そして、夫が注文して


子どもたちにはちらし寿司が来た。



夫は あたりまえに上寿司で


私は あたりまえに並寿司だった。



食べたかったものでもないのだから


どちらでも良かった。



どちらでも良かったけれど 


この時点で 何かを諦めた。



何かを諦めたけれども


私は 今でも こうして書き残している。



私は 時々こうしたことを思い出しては


若かった自分を抱きしめてやりたくなる。



夫の「普通」と私の「普通」は違う。


「普通」はオールマイティじゃない。



どちらが上でも下でもないのが


「普通」だと私は思うのだけれど。



天国の貴方には


やっぱり届かないんだろうな。