センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

モンキーバナナの憂鬱

まだ、長男が小さかった頃、


義父母は初の内孫である長男を


とても可愛がってくれた。


2週間に1度、週末になると


私たちは泊りがけで義父母宅に出掛けた。






ある週末、長男は風邪をひいて熱を出し


予定は翌週末に持ち越された。



その翌週末、


義父母宅に着くと、しばらくして義父は昼寝をし、


夫は長男を連れて買い物に出掛けた。



私と二人きりになると、


義母は台所からモンキーバナナを持って来た。


それは


バナナが好きな長男のために


前の週末に買っておいてくれたもので、


熟し過ぎて、もう黒くなっていた。


義母はそれを私に勧めた。


黒くなっているけど、大丈夫だからと。




私は、賞味期限にはあまりうるさくなく、


自分で買ったものであったとしても


捨てずに食べるレベルではあった。


もちろん


お客様には出せないレベルだったが


私は身内なのだし。



ほら、大丈夫だから、


と言うように 義母も一緒に口にした。



そして、


1本食べ終わると、さらに


「もっと食べればいい」


とモンキーバナナを私に勧めた。


モンキーバナナはまだ沢山あったのだ。






それから


義母はそのバナナを、孫である長男には


「食べさせないで」


と私に言った。


子どもには毒だから、と。



そしてさらに


息子である私の夫について


「あれはバナナは食べないから」


と付け加えるのを忘れなかった。



何か少しだけ、気持ちがざらついた。




そのうち


電話が鳴った。義姉夫婦だった。


これからそちらに行くが、


何か欲しいものはないか、と聞かれた様で


義母は


お茶菓子を買ってきて欲しいと頼んだ。




しばらくして 義姉夫婦がやってくると


私はモンキーバナナが気になった。



義母は 義姉夫婦に勧めるだろうか。




しかし、


義母はそのバナナをそそくさと


台所に片付け、


義姉夫婦が買って来たお菓子を出した。



その後、モンキーバナナは姿を消した。




義母と私は


決して仲が悪くはなく、


いつだって私には優しい姑だった。




それからしばらくして


このときの話を、


私は面白いネタとして


実家の両親に笑いながら聞かせた。



笑いながら話していると、


何故だか突然、涙がこみ上げ、


それを必死にごまかしながら、


この出来事に


私が思っていたよりもずっと


深く傷ついていたことに


初めて気付いたのだった。




嫁は嫁。


それ以上でもそれ以下でもない。



けれども


義母にとっては


私がどう感じるか ということよりも


モンキーバナナを捨てない選択の方が


ずっとずっと重要だったのだ。



たぶんもう


私がモンキーバナナを食べることはない。


けれども


私がこの出来事を忘れることも


決してない。