センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 いつかこの日を思い出す




何年も前、


実家の営業所で駐車場のラインが


剥げて見にくくなった。



この駐車場ができたとき、父は言った。 


「このライン1本が2万円だ」と。



ライン1本が2万円! 高っ!


若かった私は驚いた。



年月が過ぎ、父は亡くなり、


駐車場のラインは著しく剥げてしまった。



ラインは4本ある。2✕4=8万円


私は考える。


もしかしたら、もっと値上がりしてるかも。



そうして、たどり着いた答えは


自分でやっちゃえ! だった。



父はもういない。


兄はやらない。夫は絶対やらない。


ならば 自分でやるしかない。



今現在、自分の不器用さに苦しむ私が


なんだってそんなことを思いついたのか、


わからないけれど。



ライン1本に


2万円を払う気にはならなかった。



早速、ネットで調べると 


ラインを引くための道具や材料一式を


販売する会社があった。



ありがたいことに


その会社はライン引きの動画まであった。



何度もその動画を見て、頭に入れ


真夏の暑い日に 私は取りかかった。



養生テープをきちっと貼り、ローラーで


白いペンキのラインを引いていく。



それを見ていた近所の人が


そんなこと、プロにまかせればいいのに、


と、呆れたように言うのが聞こえた。



もちろん


プロのようにはできない。


ちょっとペンキがはみ出たところもある。



しかし、素人が初めてトライしたにしては


なかなかの出来上がりで、


私は大満足なのだった。



道具や材料全てを合わせても


1万円ほどで済んだ。



何より


トライしたことが ちゃんと形になり


ひとりで仕上げることができたのだ。



私は 達成感で暑さも忘れるほどだった。


そう、


グッジョブ!なのだった。





このときの経験が


とりあえず自分で解決できないか、を考える


きっかけになった。



いろいろな問題に煮詰まる今、



これは


私の伸びしろを伸ばすチャンスなのだ、と



あの日の自分を思い出す。



ちゃぶ台をひっくり返したくなる日もある。


世の中はままならない。



それでもいつか


今日の自分を思い出し



よくがんばった、と褒めたくなる日が


やって来るかもしれない、と思うのだ。