センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 NoとYesの間には

青色


仕事で、オーナーからの丸投げが続き、


私たちは疲弊した。



疲弊して、その不満はやがて


オーナーだけではなく、


互いにも向かった。



Noと言わなきゃ!



私たちは合言葉のように言ったけれど、


そして、それを目指したけれど。



気づいてしまった。


あたりまえのことに。



Noと言ったら、その仕事は


Noと言えない他の誰かに回される。



Noと言ったからって


その仕事が消えて無くなるわけじゃない。



Noと言わなきゃ。


でも、それが誰かにYesを強要する。



毎日のバタバタの中で疲弊してしまうと、


誰かの痛みに気づかない。



気づいてしまうと、Noと言えない。



必要とされたい欲から逃れられず、


いったい何を目指してるんだろ…


時々、ためいきで吐き出す。



いつまで働くかなぁ…



やりがいだとか、


社会とのつながりだとか、


経済的な自立だとか…




でも、いつまで?とか何のため?とか


そんなワードが頭に浮かんだら、


そこに答がある気もする。



迷い道に入り込んで、


さて、どちらに進むのか、と


途方に暮れる週の始まりである。



私たちは黄昏を歩くセンチメンタル同盟

「よろこびのうた」

青色


まだ明るい夕方、


ピーチクパーチクやたら賑やかである。



空を見上げると、


巣を離れたばかりのツバメたちが


すごい勢いで飛んでいる。



ビュン!と音がするようなその勢いは


初めて自転車に乗れるようになった、


元気な子どものようである。



嬉しくて嬉しくてたまらない、


楽しくて楽しくてたまらない。



ビュンビュン飛んでは、ピーチクパーチク。


キャッキャッとはしゃぐ幼子みたいで


そのあふれるような喜びが眩しい。



ちょっとくたびれてしまった私は


夕方の歩道橋から


この眩しい命の塊たちに救われる。



自分の翼で飛べる喜び。


自由に生きられる喜び。



何も恐れず、ただただ夢中で羽ばたく。


どんなもんだい!と言わんばかりに。





私たち人間は、こういう喜びを忘れてる。



日々のあれこれに薄汚れて、


自由に飛べる喜びを忘れてる。



ツバメたちのはしゃぎっぷりを


微笑ましく眺めながら



生命の輝き、なんて遠く忘れていた言葉を


思い切り胸に吸い込んだのだった。





ゆず「よろこびのうた」新世界

私たちは黄昏を歩くセンチメンタル同盟

 いつもと同じで違う朝

青色


その朝はいつもと同じ朝のはずだった。



同じ時間に起きて朝食を作り、


長男と朝食を済ませて、6時半に送り出す。



我が家にはカーポートがないので、


長男の車は黄砂で汚れる。



雑巾で軽く車を拭いて、


いってらっしゃい、と見送る。



そして、


いつものようにまた玄関のドアを開けた。



しかし、ガチッと硬い音がして、開かない。



えっ?なんで?


しばらく固まって動けなかった。



呆然とする、とか


凍り付く、とか


よくある表現だけれど、



実際に体現すると、ぴったりな言葉だ。



何故に玄関に鍵がかかっているのだ?


ついさっき出てきたばかりのドアが


何故にロックされているのだ?



忙しく考えながら、再度ドアを引いてみる。


開かない。


開かないよね、やっぱり…



何故?の嵐が頭の中を通り過ぎると、


さて、どうしよう?の風が吹く。



我が家の鍵はカードキーで、


私と長男と次男がそれぞれに持っている。



普通の鍵もあるにはあるが、


全て家の中である。



長男は車で走り去ったが、


連絡しようにも携帯がない。



私はメイクもしていない顔で


ひとり玄関前に取り残されている。



まだ、雨戸も開けてないから


どこかから忍び込むことも難しい。


防犯対策バッチリではある╮⁠(⁠╯⁠_⁠╰⁠)⁠╭



今日は友だちとランチの約束がある。


せっかくおしゃれして行こうと思ったのに


なんとも冴えない格好だ。



そもそも財布もない。お金がない。



仕方なく実家所有の事業所に向かう。


仕事で兄が来ているはずだ。


徒歩圏内のありがたさよ。



事の顛末を自虐ネタにして披露し、


兄からお金を借りる。



さて、待ち合わせの時間まで


どうやって時間をつぶすか…


ランチの後はどうしようか…



長男が仕事から戻るのは夜の8時半。


長い1日になりそうである。



まいったなぁ…


しかし、伊達に歳は重ねていないのだ。



週の真ん中、せっかくの休み。


無駄にしたくはない。


残念な1日にしたくない。



すっぱりと諦め、気持ちを切り替えた。



少し体調不良が続いていたので、


事業所のソファを借りて横になった。



今ではすっかり事業所の主であるコタロウは


「おぬし、何事?」と私に声をかけ、


ここは自分の出番、と思ったらしい。



横になった私の上に飛び乗り、


足踏みをして地ならしをし、


優しく添い寝をしてくれたのだった。



これが思いのほか良かった。


短い時間、柔らかな気分で眠れた。


コタロウの男気はたまに役に立つ。



そうして、約束の時間が近づき、


借りた化粧品でメイクをして整え、


どうにか見られる姿でランチに出掛けた。



久しぶりに会った友だちと話に花が咲き、


楽しくゆっくり過ごせたのだった。



気がつけば夕暮れである。



事業所にもどって、買ったまま放置された、


「博士の愛した数式」を読んだ。



そうして、8時が過ぎると、


ゆっくりと家に戻り、


庭で長男の帰りを待った。



ヘッドライトの明かりが近づく。


アクシデントの主のご帰還である。



カードキーでドアを開ける長男の背中に


笑いをこらえて声をかける。



「ねぇ、朝、ドアに鍵をかけなかった?」



事の顛末を聞いた長男は、


私の可哀想な1日を案じて、


しょんぼりと謝った。



あのね、びっくりしたけどね、


悪くない1日だったよ。



そう、悪くない1日だった。



翌朝、事業所に合鍵を置きに行く。


シニアもちゃんと学習したのだった。




私たちは黄昏を歩くセンチメンタル同盟