センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 あれから30年


近藤誠さんの対談や随筆をまとめた本が


実家から出てきた。



何年も前に私が買ったものだ。


家に持ち帰り、改めて読んだ。



そして、あの逸見政孝さんの手術を検証する


内容に、改めて胸が痛んだ。



あのとき、3キロもの内臓を切除しても


人間は生きられるものなのか、と


素人でさえ驚いた。



義父は直腸癌だったが


執刀した主治医に言われた。



リンパ節への転移はなかった。


転移があったら、そのまま閉じていた。



逸見さんのような手術は


医療に携わる者としてはありえない、と。




逸見さんのあの記者会見は衝撃的だった。


いつの間にか痩せたその姿と共に


人々に強烈な印象を与えた。



誤診だ何だと当時のメディアは大騒ぎで


あの「ゴッドハンド」と注目を浴びた医師は



逸見さんが亡くなると


猛烈な批判に晒されることになった。



おそらく、日本中の外科医が


何故、あんな手術をしたのか疑問に思った。



近藤誠さんの検証も手厳しい。


あの手術には、医学的に何の意味もない。


患者の人生を台無しにした、と。



逸見さんは、あのTVのイメージとは違い、


とても頑固な方だったという。



仕事も絶好調で、豪邸を購入したばかり。


自分のためだけではなく、


どうしても生き抜きたかったのだと思う。



あの記者会見が多くの人に感銘を与え、


一方で、主治医は引くに引けなくなった、と


近藤誠さんは推察している。



術後、


逸見さんはどんなに苦しかっただろう。



クリスマスの訃報に奇跡を祈った人たちは、


どんな思いだっただろうか。



読み終えた翌日、


ネットニュースで逸見太郎さんの記事を


見つけた。



太郎さんは、あのときの逸見さんの年齢を


超えた。



逸見さんの奥さまは、


12億という途方もないローンを抱え



必死に働いて、それでも家を維持し続けた。


奥さまも癌に倒れて亡くなり


太郎さんは今もその家にご家族と暮らす。



あの逸見さんの主治医もまた癌に倒れ、


もう、この世の人ではない。



あれから30年。


時代は大きく変わった。



それでもまだ、癌は制圧できない。


批判され続けた近藤理論も


未だに日本の医学は覆せない。



ずっと提言を続けて欲しかった近藤さんも 


もうこの世の人ではないのだった。