センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 私の半分


お正月気分もすっかり抜けて


いつもの日常に戻ったとき



1枚の寒中見舞いが届いた。


中学時代からの友だちだ。



彼は喧嘩友だちみたいなクラスメイトで


私の親友と付き合っていた時期もあり



ずっと 本音で話せる仲間だった。


そして、ずっと友だち以上恋人未満だった。



彼は 話も面白く、魅力的だったので


男子にも女子にもモテた。



私の親友は 結婚してからも


彼のことは永遠の人だと言っていた。



私は、と言えば


彼のことは 自分の半分だと思っていた。



愛とか恋とかではうまく説明できない、


ただ、私の半分だった。



大好きな人ではあったけれど


お互いに恋人関係にはなれなかった。



彼は都会に行き、


いろんな女性と付き合っていた。


私は私で地元で実らぬ恋にとらわれていた。



お互いに電話や手紙で近況報告をし


彼が地元に帰ってきたときは必ず会った。



冗談で、私が結婚したら


バラの花束を贈ってもらう約束をした。






そうして、私は夫と出会い 結婚を決めた。



結婚の報告をしたとき 



もし、うまくいかなかったときのために


半年だけ待ってやる、と冗談めかして


言ってくれた。



結婚式の当日、



彼は本当に真っ白なバラの花束と


彼の好きなアーティストのカセットテープを


式場に送ってくれた。



式場のスタッフが


その中の1曲を流してくれた。


少しだけ泣きそうになった。



そうして


その1年後に彼も結婚した。


とてもきれいな女性だとうわさに聞いた。



それからずっと


会うこともなくなった。



苦しいことがあっても


もう彼に相談することもできなかった。


年賀状のやり取りだけが繋がりだった。




私は 結婚生活に疲れて


彼もまた 離婚し、再婚した。





たまに 夢の中に彼が現れても


夢の中の私は 照れくさくて逃げてしまう。



いろんなことがあった日々を過ぎて


50になったときの同窓会で


久しぶりに彼と会えた。



けれども


私はやっぱり照れくさくて


夢と同じように 逃げていた。



それから


また10年の日々が過ぎた。



昨年、私の欠礼はがきを受け取った彼は


何もなかったように


寒中見舞いのはがきをくれた。



わずか3行の寒中見舞いは


それでも彼らしい優しさが込められていた。






 

  せっかくお祝いしてくれたのにね。


  私の結婚はうまくいかなかったよ。



  お互いに歳をとったね。



  いつかまた会えたなら


  好きな音楽の話でもしよう。



  くだらない冗談を言って


  昔みたいにふざけよう。



  私たちは どこか似てる。


  だって 貴方は私の半分だから。





あの結婚式の日、



彼が送ってくれたカセットテープは


とてもいい曲なんだ、と教えてくれた


HOUND DOGのアルバムだった。




【ONLY LOVE】 HOUND DOG