センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 出過ぎる釘


日本語には、本来の使い方が誤用されて


いつの間にかスタンダードになった、という


言葉が結構ある。



「出る杭は打たれる」は


こちらがスタンダードだけれど


「出る釘は打たれる」も誤用ではない。



私の母はまさに「出る釘」であった。


硬くて、尖って、引っかかる。



子どもの頃、不思議に思っていた。



父はおしょうゆ顔のイケメンで


優しく、穏やかで賢い人だった。


いつだって自慢の父だった。



で、母は、と言うと


お世辞にも美人とは言えないし、


気が強くて、「出過ぎる釘」だ。



お父さんは、どうしてお母さんを選んだの?


保育園の先生は美人でとても優しい。


こんなお母さんが良かったな、と。





誰でも思うことは同じらしい。



仕事上で両親を知るある女性が


まだ若かった私に聞いた。



お父さんはどうしてお母さんと結婚したの?



お父さんはイケメンでジェントルマン。


他にいくらでも選べたでしょ?


というニュアンスだった。



父は母の親友の恋人だった。


母の親友はおっとりとした可愛い人だ。


お似合いのカップルだったろう。



しかし、若い二人は何かと優柔不断で


結婚に行き着く前に壊れてしまった。



母が美人で略奪したのであれば


話は面白いのだが、そんなドラマはない。



お互いに顔見知りだったので


自然と仲良くなった、という平凡な結末だ。



で、どうして二人は結婚したのか、って?



父は「出過ぎる釘」に魅力を感じたのだ。


硬くて、尖って、引っかかる。



実際、母との暮らしは刺激があって


面白かったらしい。


よく喧嘩もしたが、仲良し夫婦だった。



若かった私は、女性に言った。


「母は、向こう(父)が惚れ込んだ、って


 言ってますよ!」と。



女性は、到底理解できない、という顔だ。


その事を母に伝えると爆笑していた。



イケメンでジェントルマンの父に


選ばれた自分に自信を持っていた。



不釣り合いだなんて、かけらも思わない。


そういう「出過ぎる釘」の母を


いつだって父は面白がっていた。



「出過ぎる釘になっちまえ!」



自分はいつだって主張することなく


静かに控えていたのに



きっと自分にはないものを持った母に


魅力を感じたのだと思う。



「出過ぎる釘」の母親を持った私は


なかなか大変だったのだけれど



私もどこかで、そんな母親を


羨ましく思っていたのかも知れない。




ゆず「逢いたい」FURUSATO