センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 苺の悲しみ


近所の八百屋さんに出かけた。


たまに利用するお店で、顔なじみだ。



野菜を何点か購入すると、


店主がニコニコと「苺もうまいよ」と言う。



私は 少しだけ躊躇したけれど


「おすすめは?」と聞いて



店主おすすめの苺を購入した。


500円だった。



そのお店は全体的に安い。


市場の売れ残りを仕入れているからだ、


という噂だった。



噂は おそらく本当だ。


新鮮さでは スーパーに劣る。



私が 苺の購入に躊躇したのは


そんな理由である。



地元の個人商店は、どこも苦しい。


品揃えも価格も大型店には敵わない。


いや、むしろネット商店に負けている。



老夫婦が営むその店舗は


地元に残る、数少ない八百屋の1つだ。


車を持たない人にとってはありがたい。



私は、応援したい気持ちもあって


時々、利用しているのだけれど。



店主おすすめの苺は 真っ赤に色づき


鮮度には不安があった。



それでも、どこかで店主を信じたい気持ちが


その判断を鈍らせた。



家で食べようとしたとき、


その苺は既に賞味期限を過ぎていることが


わかった。



スーパーであれば半額になるレベルである。



私は、やっぱりなぁ、と思った。


やっぱりなぁ、と思いながら、


なんだか 悲しかった。



傷んだ苺を勧められた私が悲しかったのか


そんな苺を勧めた店主が悲しかったのか



よくわからない。



その苺は 半分だけ食べて 処分した。


苺だって 悲しい。



500円の痛みは 思ったより大きかった。