センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 初めての思い出



夕方、バスを待っていたら


ふと、次男が初めて


逆上がりができた日のことを思い出した。



保育園に通っている頃で


練習してもなかなかできなかった。



たかが逆上がり、されど逆上がりである。


次男は憂鬱そうだった。



しかし、その日は突然やってきた。



迎えに行くと、担任の先生が教えてくれた。


逆上がり、できるようになりましたよ、と。



次男は園庭でできたてホヤホヤの逆上がりを


私に見せてくれた。



よほど嬉しかったのか 次男は


帰り道で会った、顔見知りのおばさんに



「逆上がりできた!」


と元気に話しかけた。



おばさんはにっこり笑って


「本当〜、良かったね!」と褒めてくれた。



次男の嬉しさを丸ごと受け止めてくれて


「嬉しかったんだね!


と私に笑いかけてくれた。



何でもない、やり取りだ。


けれど、私には幸せな思い出だ。






私は暮れゆく街の景色を見ながら



初めて逆上がりができた日と


初めて自転車に乗れた日の感動を



超えるものってあるのかな?


と考えていた。



嬉しい瞬間、感動の瞬間は


歳を重ねた分だけは経験してきたけれど



初めて逆上がりができた日と


初めて自転車に乗れた日の感動を


超えるものは無いような気がする。



二度と戻らない、


あの短い子ども時代だからこそ


味わえた大きな感動だったのだと思う。



人間って 誰しもそんな素敵な思い出を


心に持ちながら大人になっていくんだな。



せわしなく過ぎていく秋の夕暮れ、


私はほんの少し温かな気持ちになって


帰途についたのだった。