センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

「殿さまの茶碗」


歴史のある、有名な窯の


素敵な湯呑みと茶碗をメルカリで見つけた。



私好みの青色に赤い花。



考えた末に 購入することにした。



届いてみると


その湯呑みと茶碗は驚くほど薄く、軽い。



こんなにも薄く軽くできるのか、と


感心しつつ、とても気に入ったのだった。




そうして


熱いお茶を飲もうとその湯呑みに注ぐと



     熱くて持てない!



素地が薄すぎて 湯温が直に伝わるのだ。





そのとき 思い出したのは


昔、国語の教科書に載っていた、小川未明の


「殿さまの茶碗」という話だ。





ある国にいた、腕の良い陶器師に


殿さまの家来が殿さまの茶碗を注文した。



薄くて軽い上等な茶碗を、という注文に


陶器師は腕を振るって作陶し、献上した。



なるほど薄くて軽い、上等な茶碗だったが


薄すぎて、注いだ食材の温度が直に伝わる。



殿さまは我慢強い方だったので


それをずっと我慢し続けた。



あるとき、殿さまは


山奥の百姓の家に泊まることがあった。



そこで出された茶碗は


熱々の汁を注いでも、全く熱くならない。



殿さまはその茶碗が


もてなしてくれた百姓同様、使い手にとって


とても親切な作りだと感心した。



そして、件の陶器師を呼び、


薄くて軽い茶碗にどれほど難儀したのかを


静かに伝えた。



それから 陶器師は


使い手に親切な、厚手の茶碗を作るように


なったのだった。






この話は とてもよく覚えている。




私が買った湯呑みと茶碗は


まさに 殿さまの茶碗だった。




熱くて持てない湯呑みに驚きながら


なるほど、殿さまは難儀しただろうと


実感したのだった。




上等なことより 親切なことが大事だ。


見かけより 使い勝手。



色んなことに通ずる話ではないだろうか。