センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 命の綱



私が中学生のとき


父がバイクに乗るようになった。



自営で、父と母は一緒に働いていたが


営業所は自宅からは車で20分くらいだった。



朝は父が先にバイクで出かけて


母と私は 後から車で出発した。



バイクに乗るにあたっては


ヘルメットが必須になる。



バイク専門店に出かけた父は


安いヘルメットで十分だと思っていた。



しかし、店主は




  悪いことは言わないから


  高い方を買っときなさい。


  モノが違う。


  命を守る物だから。



と、強く父に勧めたらしい。



仕方なく、父は高い方を買うことにした。







それから


わずか 数ヶ月後のことだ。



いつものように 朝、父が先に出かけた。


母と私もいつものように


後から出発した。



中間地点の交差点に来ると母が声を上げた。



  「あれ、お父さんじゃない?!」




見ると、交差点近くの


金融機関の外壁にもたれて 



父が地面に座っている。


傍らに バイクが倒れていた。




車に接触して、飛ばされたのだった。







父は足を骨折して 入院した。


足だけで済んだのは不幸中の幸いだ。



病院で 父が被っていたヘルメットを見た。


分厚くて 頑丈なヘルメットだ。



それでも


表面には 縦に長く亀裂が入っていた。




ぞっとした。




バイク専門店の店主は


仕事柄、よくわかっていたのだ。




バイク事故の怖さを。




奇しくも


父が事故に遭った場所は



そのバイク専門店のすぐ近くだった。




私たち家族が



そのバイク店の店主に心から感謝したのは


言うまでもない。




命の綱となるものには


お金を惜しんではならない。



   

   これは とても大事なことだ。