センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 サーカスのライオン



何年も前のこと。



サーカスのチケットをもらった。


平日だったので、友だちの都合がつかず、


一人で 見に行くことになった。






穏やかな春の日、



お天気も良く、サーカスに集まった人たちは


みんな、ニコニコと楽しそうだった。



途中までは 私も楽しく観覧できた。


雲行きが怪しくなったのは


ライオンの火の輪くぐりが始まった時だ。



筋肉隆々の大柄なライオン使いが


鞭をしならせて登場した。



時に 歯を向いて唸るライオンに


容赦なく その鞭が振り下ろされた。



サーカスではあたりまえの


その光景を見ていたら



ビシッ、ビシッと ライオンを打つ音が


胸に刺さり、



プライドの高いそのライオンが


無性に哀しく見えて


どうしたことか 涙がこぼれた。



周囲の拍手と歓声の中、


いい年をした大人が 


ひとりでボロボロ泣いていた。



この芸を見せるために


ライオンは何度鞭を振るわれたのだろう。



遠い国からやって来て


狭い檻に閉じ込められて



こんなことをするために




と そんなことが頭をよぎると


もう、その後の芸も 楽しめなかった。



子供の頃に サーカスを見たときは


そんな気持ちになることなんて


全くなかったのに



どうにも 自分の気持ちに折り合いがつかず


もう、二度とサーカスを見ることは


私にはできない、と


トボトボと家路に着いたのだった。







春は希望に満ちているイメージだが


心も 身体も 揺らぐ季節だ。




サーカスのライオンに涙したあの春の日、


私の心も 揺らいでいたんだろう。