センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

「少年の日の思い出」


前に書いた、魔が差した男の子は


やはり退所することになった。



自分の子どもがそんなことをするはずがない


と激怒した親は



その気持ちを息子に押しつけてしまい、


魔が差したモノを返そうとした息子の心に


水を差してしまった。



親の怒りにひれ伏した息子は


親の描いた筋書き通りに掌を返し



魔が差したモノは 持ち主に戻らなかった。


そして、逃げるように立ち去る。



せっかく、


息子が自分を正すチャンスだったのに



そういう自分を


リセットできるチャンスだったのに…




国語の教科書の定番だった話を思い出す。


ヘルマン・ヘッセの「少年の日の思い出」。



蝶の大好きな少年が、


近くに住むエーミールの珍しい蝶を


本人のいない空きに持ち去ろうとする。



途中、メイドとすれ違い、


慌ててポケットにねじ込んだ。



良心の呵責から、その蝶を返そうとするが


ポケットから取り出したその蝶は


無残に潰れてしまっていた。



絶望と激しい後悔に襲われた彼は


母に促され、エーミールに謝罪する。



「そうか、君はそういう奴だったんだな」



代わりに自分の蝶の提供を申し出るが


冷たく拒否されるのだった。



そして、その後、


主人公は自分の大事な蝶のコレクションを


一つずつ潰してしまう。



激しい後悔と絶望と共に


大切な蝶の収集と決別した瞬間である。



彼は、この取り返しのつかない過去の痛みを


大人になっても忘れ去ることができない。



ざっとこんな話だったと思う。


覚えている人も多いだろう。



過去は自分の歩いてきた足あと。


痛みの強い思い出ほど


ある日、突然追いかけて来る。



主人公のこの痛みに共感できない人は


いないだろうと思う、



魔が差す瞬間は、誰にも訪れる。



あの子とその母親は、これからこの出来事を


どんなふうに消化していくのだろう。



カードは返すことができるのだ。


蝶のように潰れたりはしない。



思い出って


突然に追いかけて来るんだよ。


良いことも 悪いことも…



それはシミになって 消えることはない。