センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 私が月に吠える理由


夫の遺品にあった書類の中に


昔、住んでいた家の売却メモがあって


それは全部で3枚見つかった。



昨日、最後に見つけたメモが


最も手取り額が多かった。165万円である。


おそらく この価格で決着したのだろう。





私には 一切知らされなかったが


それはいい。夫の家なのだから。


もう、遠い過去のことなのだし。




それでも 私の中でモヤモヤするのは


彼の遺した負の遺産が 


私を煩わせるからだ。




夫は会社の借金の連帯保証人となっていた。


役員だったのだから 仕方ない。



会社が存続できなくなったときは


もちろん応分の負債は負うつもりでいた。



その件について 


専門家に助言をもらった方が良いと考え


弁護士に相談した。



弁護士は 会社が存続するのであれば


私たち家族は、連帯保証人から


外してもらうべきだ、と言った。



実家の取引先の金融機関でも


融資係に相談してみたが



亡くなったのであれば


うちだったら連帯保証人から外しますよ、と


言った。



弁護士は、当然に外してもらえる、と


考えたらしく、


その方向で話を進めたが



相手先の金融機関は


会社側が同意しなければ外せないし



会社側は絶対に同意しない、


と言ったそうだ。



そして、もちろん弁護士は


会社側と話をしたけれど



後日、弁護士宛に


連帯保証人の債務は負ってもらいたいこと、



さらに夫には80万円の貸付け金があり


その利息18万円と共に


その債務は相続人に継承してもらいたい、



という文書が送られて来た。



弁護士はその利息の額に驚いていた。


私も初めて聞く債務である。



そして、弁護士は


「普通は外すんですけどね」と


首をひねっていた。



夫はこの文書を送って来た社長と


大学時代の友人で



まだ独身の頃、この社長に誘われて 


この会社に転職したのだ。



けれども


二人が役員になった頃には



会社はさらに業績が下がり


会社が背負っていたローンが


大きな重荷になっていた。



そして おそらく、晩年の夫とこの社長は 


ビジネスパートナーとしても 友人としても


うまくはいかなかった。



それは、たぶん夫のせいだ。



家庭もうまくいかず、仕事もうまくいかず、


社長の座は自分ではなく


色々な想いがあったのだと思う。



夫の亡くなった後、


家に何度か訪ねて来た社長は



その言葉の端々に 礼を失せぬ程度に 


夫への不満をにじませていた。



傾きかけている会社で


連帯保証人の責任を一人で負うのは


重すぎる。



2000万円近い借金だ。


外したくないのも無理はない。



しかし、新たな業績提携先を見つけて、


彼らは職を失うことなく給料を貰い、



時がくれば


年金を貰うことができるのだ。



夫は年金を貰うことなく亡くなり


別居の私には遺族年金の権利もなく


ただいま絶賛失業中である。



弁護士は 会社の死亡退職金についてとか


夫の80万円の債務についてとか



会社に問い合わせる書類を送付したが


相手は 一切無視している。



弁護士は裁判も検討したようだが


それだけのメリットは見込めず


無職の私の負担も考えたのだろう。



この件はこのまま様子を見ることになった。


会社が順調に存続し


借金を返済していけば問題はない。



しかし、連帯保証人であるリスクは


返済が終わるまで続くのである。





義父の遺した、見たこともない遠くの土地は


その税金を払う代表者にはなりたくないが



その所有権を放棄したくはない、という


誠に都合の良い言い分の義姉夫婦と


今後について話し合わなければならない。



法律が変わったので


昔のように、不動産を故人の名義のまま


放置することはできないのである。



何もいらないから


自分たちで考えて欲しい。



不動産登記にも 結構なお金がかかり


手間もかかるのだ。



面倒なことをスルーして


権利だけ主張することはできない。



こうした煩わしさに 時々 うんざりする。



私は善人でもないが、悪人でもない。


故意に人を陥れようとか だまし取ろうとか



そんなことはしていない。


真面目に生きてきた。



それでも こうした事態に直面する。



夫の残した売却メモを見ながら


どうしようもなく理不尽だと感じてしまう。



私が月に吠えたくなる理由は


こんなところだ。



いちばん吠えたい相手は


たぶん夫なのだけれど。



世の中には 色々な理不尽がある。


それを寡黙に耐えている人もいる。



私はまだまだ修行が足りず、


まだまだ吠え続けるのである。