センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 群衆




昔、閉幕間近の愛知万博に行った。


夕方に着いて


閉園ぎりぎりまであちこちを見て歩いた。



閉幕間近ということで、


夜になってもすごい人だった。



さぁ、帰ろうと出口に向かったとき


もっと早く帰れば良かったと後悔した。



出口は1箇所しかなく


そこにものすごい数の人が殺到したのだ。



こんなに大勢の人がこんなに密集している。


危険を感じて、冷や汗が出た。



そのものすごい人波に


私は明石の歩道橋事故を思い出していた。



夏祭りの花火大会、


歩道橋に大勢の人が集中して


群衆雪崩を起こし



小さな子どもを含む11名が亡くなり


100人以上のけが人を出した群衆事故だ。



その夜の万博会場出口は 一歩間違えば


同じ事故が起きかねない、


恐ろしいほどの過密状態だった。



誰かひとりでも転んだら


そのままドミノ倒しになってしまう。





すると


ひとりの警備員がメガホンスピーカーで


穏やかに群衆に語りかけた。



大勢の人が集中しているこの状態で


先を急いで押したりすれば


事故につながってしまう。



皆さまには安全に帰っていただきたい。


だから、こちらの誘導に従って欲しい、と。



上から押さえつけるような言い方でも


人々に不安を与えるような言い方でもなく


終始、穏やかなアナウンスだった。



早く帰りたい気持ちは皆同じだが


その異様な人の群れに 誰もが


少なからず恐怖心を抱いていたに違いない。



警備員は


人々に横一列になって 警備員の合図で


一歩ずつ進むようにと説明した。



そして


その場にいたものすごい数の人々は



誰も一切文句を言うことなく


素直に警備員の言葉に従い



合図と共に 一歩ずつ


まるで牛歩のような緩やかさで


少しずつ進んで行った。



誰か一人でも勝手なことをすれば


悲惨な事故につながることを


皆が緊張感を持って理解したのである。



あの経験は忘れることはない。



万博会場の人気のパビリオンよりも


あの群衆がひとつになって進んで行く光景が


脳裏に強く焼き付いている。



私は その警備員を心から尊敬し


心から感謝した。



彼の穏やかな語りかけと誘導がなかったら


とても安全に帰ることはできなかった。



まさにプロの仕事だった。




韓国で起きた群衆事故で


私が思い出したのはそんなことだ。




あの警備員のプロとしての仕事は


徹底した研修や経験など努力の賜物だ。




そして、人々が


それを理解し従うことができた、


ということも大事なことだったと思う。



今回の事故で


多くの方が亡くなったことに胸が痛む。



大切な命を守るために


他人事ではなく


私たちも深く考えなければならないと思う。