センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

「愛を下さい」


風邪で寝込んだり、日々忙しかったりで


撮りためた録画番組が増えすぎてしまった。


かなり前のものもある。



その内の1つに辻󠄀仁成さんの番組があった。


この人の小説が好きだとか、


音楽が好きだとか、という興味はない。



中山美穂さんと結婚したとき、


出会いの言葉が「やっと会えたね」だったと


報道されたことが印象に残っていた。



よく読んでいた週刊誌で


辻󠄀さんのエッセイが連載されていたので


毎週、それを読んでいた。



フランスで暮らす、


奥さまとの仲睦まじい様子が伝わった。



一方で中山美穂さんも、


月刊誌でエッセイを書かれていて



夫君の仕事に配慮されている様子や


刺繍にはまっていることなど


穏やかな暮らしぶりを綴られていた。



だから、離婚の話が出たときは意外だった。



そして、それが妻の新たな恋が決定打で、


親権、養育権を妻が手放すことが


離婚の条件であったことにも驚いた。



その後、辻󠄀さんのエッセイは


シングルファザーの生活や葛藤が


綴られるようになった。



「やっと会えたね」なんてセリフを


照れることなく言えた人が



突然の嵐のような日々に苦悩し


その弱さをありのままに綴る様子は


痛々しいほどだった。





だから、辻󠄀さんの番組を見た時、


しばしばエッセイに登場していた御子息が


もう、大学生になっていたことに驚いた。



子育てに孤軍奮闘していた辻󠄀さんは


たくさんの試練の中で



周りの人たちに助けられ、


だからこそ今がある、という感謝の中で


子育ての卒業を迎えたのである。



御子息の大学入学を機に


辻さんは住み慣れたアパルトマンを


離れる決意をする。



御子息は大学の近くで一人暮らしを始め、


辻さんは田舎町で暮らすことになった。



番組では、その引越しの様子も紹介され、


辻さんがそれまでの暮らしをリセットする、


その決意も伝えられる。



住み慣れたアパルトマンの地下には


おそらく家族3人で暮らしていた頃の


思い出の品が保管されている。



辻さんは、自分にもしものことがあったら、


それを御子息に託すつもりだ。



そして、それを御子息が


「いつか過去と和解できたときには」


向かい合って欲しいと願うのである。



その言葉に、辻さんのそれまでの苦悩や


御子息の葛藤の日々などが滲み、


胸が詰まった。



両親の離婚はまだ10歳の時であった。



おそらく、離婚は辻さんとの暮らしの中で


中山さんに徐々に芽生えたもので、


辻さんはそこに気付けなかった。



新たな恋はその背中を押したに過ぎないが、


中山さんは世間からのバッシングに遭い、


3人が3人とも深く傷つくことになった。



辻さんは今後の自分の人生に焦点を当て、


新たな挑戦を続ける。



中山さんは、相変わらず美しく、


歌にお芝居にと充実した活躍ぶりである。


それでも、忘れられない思いがあるだろう。



御子息も立派に成人となった。


過去と和解する日がいつか訪れるといい。



その地下の荷物には


幼ない頃に御子息が描いたであろう、


1枚の絵があった。



クレヨンで大きく描かれたその絵は


お母さんの絵である。



番組を見ながら、


ちょっと切ない気持ちになったのだった。





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