センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

「やり返したら、その子も痛いよ」

長男が保育園に通っていた頃、


仲良くしていた母友がいた。


彼女は「ママ」というタイプではなく、



「かあちゃん」だった。



彼女もマイウェイを突っ走る夫に悩み、


お互いに家族のことや、子育てのことなど


なんでも話した。






彼女の長男とうちの長男がなかよしで、


彼女の家にもよくお邪魔した。



彼女の息子はとてもハンサムで


常に穏やかで優しかった。




その優しさ故に


よく意地悪もされていた。




いつも意地悪をされて


泣いて帰ってくる息子に


彼女は憤りが抑えきれず、


ある日、ついにこう言った。




「やられたらやり返せ!」







すると


彼はこう答えた。




 「やり返したら、その子も痛いよ。」





彼女は、その話をしながら



「私はなんて馬鹿なことを言ったんだろう。


この子はこんなにもわかっているのに。」



と、自分を責めていた。





ある日、


いつものなかよしメンバーが


我が家に遊びに来ることになった。


その中には、もちろん彼女の息子もいた。




家に向かう道中の車内で


子供たちがガムを見つけた。



「食べたい、食べたい!」と


はしゃぐ子供たちの傍らで


彼女の息子は、じっとそのガムを見つめ、


私に尋ねた。




「このガムはアレルギーにならない?」




車内にいたひとりの女の子は


とてもひどいアレルギーを持っていた。



彼はそれを気遣ったのだ。



彼女の息子はそういう子供だった。






だから、


彼女からその話を聞いたとき



いかにも彼らしい話で、


私は胸がいっぱいになった。




私の二人の息子も


それぞれに痛いいじめにあったのだが、



「やられたらやり返せ!」



という言葉を


辛うじて私が呑み込めたのは



5歳のあの子が教えてくれた、


あの言葉があったからだ。




「やり返したら、その子も痛いよ。」




  赦されながら生きている



と、私は彼から教わったのだった。