センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 祖父の浮気

母方の祖父とは


私は ほとんど話したことがなかった。



母は本家に里子に出され


途中でまた実の親の元へ戻った。



だからなのか


母と実の親との関係は微妙で


その子どもの私も 微妙な位置にいた。





祖父は指が3本なかった。


戦争で捕虜となり、


シベリアに抑留されたのだ。



祖父は裕福な家に生まれたので、


今でも難関の私立の学校を出た。



見た目も良かったようで


外に飲みに行くと、とてもモテたらしい。



戦争で何年かシベリアに抑留されて


日本に戻ってきてからも


外に飲みに行くことをやめられなかった。



それが原因で 祖母とは仲が悪かった。






大人になった私は



ある日、


整形外科へ向かって歩く祖父を見た。



こんなふうに笑うことができるんだ、


と驚くくらい、


祖父は柔らかい満面の笑みを浮かべていた。



その傍らには


見知らぬ、品の良いご婦人がいたのだ。



祖母とは 全くタイプの違う、


穏やかな女性だった。



その話を母にすると、


母は笑いながら言った。



祖母は祖父の浮気を疑って


自宅から徒歩15分の道程を


後から付けて行ったことがあるらしいのだ。



私は 祖母がひたひたと


祖父の後を付けて行く姿が目に浮かぶ。



祖母は可愛気のない女性で


料理も和裁も下手だった。



たまごが先か 鶏が先か



祖父が祖母を大事にしていたら


祖母は 可愛気のある人でいられたのか。



祖母が可愛気のある人だったら


祖父は外で遊んだりしなかったのか。



ひたひたと


祖父の後を付けて行った祖母は



当時、とうに70歳を超えていたのだけれど。



男と女は いつの時代も難しい。