センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

お岩さんの気持ち

その日、私は仕事を休んで


ある採用試験を受けていた。



試験は無事に終わり、


とても疲れていたので、


家に帰ると、少し眠った。



やがて起きると、なんだか左耳の下辺りが痛い。


なんだろう?






翌朝、少し左頬が腫れていた。


身体もだるくて、


できることなら仕事を休みたかったのだが


前日、休んだことでもあるし、


頑張って出勤することにした



仕事が終わって、


病院に行くことにしたのだが、


あいにく、その日はかかりつけ医の休診日。



別の病院に行くと、すごい人だった。


2軒目も午後からは休診で、


3件目は、あと30メートルで辿り着く、


というところで、看板の電気が消えた。



マンガみたいな話だな、


と思いながら


もう、他を探す元気もなく、


家に帰って、ふとんに潜り込んだ。






翌朝、


鏡を見ると、左半分がさらに腫れていた。



ようやくかかりつけ医に診てもらい、


点滴をしてもらって、休んでいたが、


熱が出て、何も食べられず、動けなかった。



顔は更に腫れ上がり、


起き上がることさえ、つらかった。



家族に心配され、


タクシーで大きな病院へ行くと


即入院となった。






病名は丹毒。


聞き慣れない病名だが、


溶連菌等の菌に感染することで発症する。



それは1月の寒い頃で


インフルエンザが猛威をふるっていた。


感染しないように、


いつもマスクを着けていたのだが


マスクの紐で左の耳がかぶれていた。


皮肉なことに、そこから感染したのだ。



顔に菌が入ると、


脳に回ってしまうことがある。


髄膜炎を疑われ、


髄液を採って検査した。



幸い、髄膜炎にはなっていなかった。



しかし、


おかげで入院は2週間に渡り、


せっかく一次に通った採用試験も


面接まで進むことができなかった。




   頑張らなければ良かった。




入院中、何度も心でつぶやいていた。






入院後、顔はさらに腫れ、


トイレで鏡を見るのが怖かった。



色々な患者に慣れているはずの看護師も


処置だけすると、そそくさと消えた。



退院のとき、


ひとりの看護師が


「顔が治って良かったね〜。入院したときは


どうなることかと心配したんだよ。」


と声をかけてくれた。



それくらい酷い顔だったのだ。




人は見た目が9割、と言うが


私はこのとき、


初めてお岩さんの気持ちがわかる気がした。




人から驚かれ、逃げられ、


何より自分自身がその顔を見て


どんなに怖くて孤独だったろう。




まして、


それが愛する人の仕打ちだとすれば、


恨まない方がおかしいではないか。






自分の身に起こらないと、


なかなかわからないことがある。



よもや


お岩さんに共感する日が来るとは。




人を見た目で判断してはいけない


と言われるが




お岩さんの気持ちは


お岩さんにならないとわからない。