騙される心 信じたい心
私が住んでいるのは小さな田舎町で
ほとんどの人が地元の信用金庫を利用する。
信用金庫は、距離感が近く、面倒見が良い。
定期的に訪問してくれることもあり、
高齢者にとっては頼りになる存在だ。
私の実家は商売をしていたので、当然のように信用金庫を利用していた。
信用金庫の職員には異動がある。
私がまだ若かったその頃、新たに異動となったその男性はやって来た。
背が高く、明るく、華のあるその人は、それまで来ていたどの職員ともタイプが違う、魅力的なイケメンだった。
おそらく彼と会った人の多くが好感を持ったことだろう。
しかし
しばらくすると、取引のあった兄から苦情が出るようになった。
頼んだ業務の処理がなかなか実行されず、仕事に支障が出ていたのだ。
それも、1度や2度ではなかった。
苦情は母から直接伝えられた。
彼は、深々と頭を下げ、
「今後は気をつけます!」と、何度も謝罪した。
その直後、信用金庫の前を通りかかると、たばこ休憩をしていた彼は私に気づき、直立不動で頭を下げた。
しかし
直前までたばこを吸っていたその姿は、どこか清潔感に欠け、初めて会ったときの印象とは大きく異なるものだった。
その後も改善されることがなかった仕事ぶりに兄は腹を立て、信用金庫の支店長に電話をかけた。
すると
彼が担当する他の顧客からも苦情が寄せられていることがわかった。
当然、彼は外回りの仕事を外され、
ほどなくして姿を消した。
そして、
彼が顧客のお金を不正に流用していたことが、またたく間に噂で流れた。
その額は、7千万円だとも9千万円だとも言わた。
ひとりの顧客の問い合わせで発覚したのだと言うが、被害者は複数人いたようだ。
しかし、その件は公表されることはなかった。
被害者が被害届の提出を拒んだのだ。
あの人はそんな人じゃない
私は騙されてなどいない
そして、彼がその家族と共に弁済を約束することで、内々に処理されたのだった。
人を引き付ける天性の魅力と華が、騙されても騙されても、信じたい心をつかんで離さなかったのだろうか。
人はたやすく騙される
その心を誰も笑うことはできない。
バンクシー展より
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