センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

246円の価値

前に


夫が、アルコール依存で


眠った後に酔いが回って、


夜中に色々やらかしてくれたことを書いた。




夫は、夜中に2度トイレに立つ。



そして、何故か台所で蛇口をひねり、


お湯を出しっぱなしにして


ガスを止めてしまったり、



玄関や屋上に向かうドアを


開けっ放しにしたりした。




   危なくて仕方ない。




だから、夜中に私も起きて



彼のトイレが終わるのを


近くで待つようになった。




本人は、目が虚ろで、


何をしたか、どこへ行ったかなんて


まるで覚えていない。




真夜中の彼の番人は


睡眠時間を削り、大きなストレスになった。



しかし


彼に何を言っても、笑ってごまかすばかりで


話にならなかった。




私がどうにも我慢できなかったのは


彼が粗相した、その後始末を


常に私がやらねばならないことだった。



トイレマットも、スリッパも


時にはペーパーホルダーも


びしょびしょに濡れていた。




翌朝、自分で気付いても


夫は絶対に自分で始末をしなかった。



それは、私の仕事なのだ。




どんなに、その話をしても


逃げてしまう彼が許せず




ある日、


びしょびしょのトイレマットを


彼のベッドの下に置いた。



それを片付けることが、


どんなに大変で、嫌なことかを


本人が知るべきだと思ったからだ。




晩の後片付けを終え、


やれやれとお風呂に入っていると




怒った夫が


そのびしょびしょのトイレマットを



   入浴中の湯舟の中に



     放り込んだ。




   夫は、そういう人だった。




睡眠不足とストレスで


ある日、ひどい目眩を感じ、


しばらく起き上がることができなかった。



3日ほど


ほとんど食べることができなかったのだが



ある日、


次男が小さなレジ袋をぶら下げて


寝室にやって来た。



「たぶん、食べれないと思うけど」


と、複雑な表情を浮かべていた。





開けて見ると


そこには、夫が買ってきた、


納豆巻のお寿司が1パック、入っていた。



納豆は嫌いではなかったが、


目眩と吐き気で食欲のない相手に


こういう選択をするものだろうか。




夫らしいと言えば夫らしい。




次男の複雑な表情はこれだったのだ。



私は、胃の中がからっぽで


まるで食欲もなかったが



その納豆巻に貼られた、


246円の値札を見ながら



これが1番安くて、


無駄になっても惜しく無い値段だったのだと


理解した。






    私の価値は



  売れ残った納豆巻きの



  246円でしかなかった。