センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 先生のいじめ問題 ③


いつも氷のような表情で


冷たく子どもたちを威圧する2年生の担任は



発達障害の子どもが嫌いだったのだと思う。



Y君という、おとなしくて、


少し知的レベルの低い子どもがいた。



喘息の既往歴があり、よく学校を休んだ。



休んでも、宿題は免除されない。


勉強が苦手な上に 休みが多いので


たまった宿題は消化しきれない。



ある日、そのクラスの算数の授業に入ると


Y君は1番後で 机をみんなと逆向きにして


必死に汗をかいて漢字の宿題をやっていた。



何故、算数の時間にひとりだけ後ろ向きで


漢字の宿題をやらされるのだろう。



その日は 初めて筆算を習う日だった。



筆算は定規を使って線を引いたり


ノートのマス目をきちんと空けて書いたり


書くときの決まり事がある。



大事な授業なのに、


何故、漢字の宿題なんか優先させるのか


さっぱりわからなかった。



ひとりだけ机を後ろ向きにさせられたY君の


その気持ちを考えたことはないのだろうか?



次に算数の授業に入ったとき


Y君はまたも机を後ろ向きにしていた。



担任は私に 算数の教科書を見せて Y君に


何ページから何ページまで教えて下さい、と


言って 自分は授業を進め始めた。



びっくりした。



支援員は支援するのが仕事なので


積極的に教えることはできない。



教えるのは教師の仕事なのだ。


だが言われた以上、従うより他ない。




先生が教えるように言ったページは


彼が漢字の宿題をやらされていた時間に


授業でやったところだった。



この先生は わざと漢字の宿題をやらせて


Y君に嫌がらせをしていたのではないか?



彼は 漢字の書き取りが苦手だったのだ。



その後、Y君は不登校になった。


宿題がたまりすぎて消化しきれず


先生の叱責に耐えられなくなったのである。



教頭にY君の母親から電話が入った。


先生が怖くて、子どもが学校にいけないと


言っている、と。



担任はそれを否定した。


必要以上に宿題は出していないし



強要もしていない。


母親が過保護である、と突っぱねた。



再三、母親からのクレームを受けて


教頭がこっそりと廊下で授業の様子を見た。



そして、憤慨しながら職員室に戻ってきた。



「まだ2年生の子どもに 忘れ物をしたくらい

 

 で 人でなしくらいのことを言っている。


 いくらなんでもいい過ぎだ!」





Y君は 別の授業のとき


なんだかモゾモゾしていた。



トイレを我慢しているように見える。


目立たぬように そっと彼に近寄り



「トイレ?」と聞いてみた。


彼は首を横に振り、否定する。



担任が怖くて言えないのだと思い、


「トイレに行ってもいいんだよ」と


こっそりと言ったのだが



彼は 頑なに違う、と否定した。



もう少しで授業が終わるので


我慢できるのかと思い、


そのまま後に下がった。



しかし、チャイムが鳴る前に彼は座ったまま 


ズボンを濡らしてしまったのだった。



しまった。


無理にでもトイレに行かせればよかった。


私の判断ミスだ。




そのまま 担任に知らせて


彼を保健室に連れて行った。



保健室には こういう場合に備えて


新品の下着が用意されている。



養護教諭は 若くて優しい人だったので


彼は惨めな思いをすることなく


体育の服に着替えることができた。



トイレに行きたい、と言えないほど


担任に対して怯えていたことに


私は胸が痛くなった。





常勤講師は1年ごとの契約で


3年は更新される。



しかし、この先生は更新されることは


なかった。当然だろう。



新年度、別の街で1年生の担任になったと


歓送迎会で聞いた。



私も 仲の良い講師の先生も


そのクラスの1年生は可哀想に、と


心から同情したのだった。