もう一つの憂鬱
夫からSOSが来た。
体調不良で、買い物に行けない。
いくつか 買ってきて欲しい物がある、と。
久しぶりに会う夫は
浦島太郎のようだった。
足の筋肉がやせ細り、顔色も悪く
立ち続けることも難しかった。
部屋はモノであふれ、片付けは放棄され
絵に描いたような荒み方だった。
何にしても
病院に連れて行くしかない。
そして、一昨日の朝一番で
次男と二人、病院へ連れて行った。
待合室にいた患者のほとんどが
夫よりも10ほど年上だったが
1番老け込み、ヨロヨロしていたのは
間違いなく夫だった。
椅子に座ってしまえば
ヨロヨロしていたのが嘘のように
饒舌になっていて
この人が 病気なのか
アルコールによる衰えなのか
判断がつかなかった。
いつも夫を気遣う次男でさえも
病気でないなら
線を引かなくては
と、険しい顔で言った。
次男がひとりで夫の元へ行ったとき
アルコールのにおいがマスク越しにも伝わり
夫を乗せた車は
夫を降ろしたあとも
しばらくそのにおいが消えなかった。
ヨロヨロと
あっという間に老人になってしまった夫に
次男は、落胆していたのかも知れない。
いくら何でもあれはない。
珍しく苛立って、私にそう言った。
そして今日
血液検査の結果を聞くため
夫を病院に連れて行ったが、
彼はさらにヨロヨロで、
全てに介助が必要だった。
結局
大きな病院で検査を受けたが、
単なる
アルコールによる脱水だった。
そのために
朝から夕まで病院にいて
次男の貴重な1日も
私の貴重な1日も
何もできずに終わってしまった。
トイレもひとりで行けず
服の着脱もひとりでできず
長い点滴をいっしょに待ちながら
「病めるときも健やかなるときも」
というあの言葉を
何度も何度も
痛いほど噛み締めて来たけれど
今更のように
紙切れ一枚の重みに
深い深いため息をついたのだった。
老猫を失う悲しみと
このやりきれない虚しさと
この12月は
どこまでもブルーで終わる。
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