センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 リクルーター➁


その若い男性はおそらく


長男とそんなに歳が変わらなかったと思う。



彼は、就職説明会に長男が行ったこと、


そこで長男が自衛隊に興味を持って


ブースを訪れたことなどを話し始めた。




いや、いや、それは違うぞ。


長男は自衛隊に興味なんて持っていない。


Noと言えない日本代表のひとりに過ぎない。



長男は横から見ても縦から見ても


自衛隊からいちばん遠いタイプの人間だ。



のび太をそのまま大人にしたみたいな


屈強さからはほど遠い草食系男子なのだ。



そして



その電話の主もまた


自衛隊のイメージからはほど遠い、


優しげで頼りなげな声だった。



私は 


本人が留守であり、なおかつ


全く自衛隊に興味がないこと、



そういうタイプでもないことを伝え


電話を終わらせようとした。



しかし、相手は必死である。


一度、こちらに来させてもらえないか


と言うのだ。



残念だけれど、と言いかけると


来てもらわないと困るのだ、



自分たち下っぱにはノルマがあるのだ、と


なおも食い下がる。





私もNoと言えない日本代表のひとりである。



頼まれると、たいていのことは


引き受けてしまう。



しかし、


こればかりは引き受けるわけにはいかない。



私は、電話の主に同情しつつ


丁重にお断りしたのだった。



どこも下っぱは大変なんだなぁ。


その若さで自衛隊のリクルーターかぁ。



自衛隊の厳しい訓練に耐えてなお、


こんな役目もあるんだなぁ。



私はなんだか身に詰まされるのだった。



自衛隊の本分は国防である。



こんな頼りなげな青年が


厳しい訓練に耐え、


いざとなったら 盾にも矛にもなるのだ。



この年の瀬の


この国の性急な大転換点で



私は あの頼りなげなリクルーターを


思い出す。



彼はまだ自衛隊に所属しているだろうか。


この国の大転換点に


彼は何を思うだろうか。




誰も 戦争には行かせたくないんだ。


誰も 泣かせたくはないんだ。



あの戦争で 


この国は 何を学んだのか。