センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 あの子の未来


「普通の子」であるために


普通学級に在籍していたあの子について



1年が終わる頃


保護者と学校とで 再び話合いが持たれた。



この学校に 


新たに支援級ができることになったので



そういう打診も含めての話合いだったろう。


管理職、担任、支援級の担任が同席した。



しかし


この話合いも決裂し、母親は再び激怒した。



学校は 完全降伏するしかなかった。



そうして


あの子は 普通学級の2年生になった。






学年が上がった分、


あの子に付く介助アシスタントの時間は


減らされていた。



そこで 非常勤講師が 


足りない時間を補うことになった。



ひとりの子どもに ここまで手厚いことに


現場の教師からも驚きの声が上がった。



あの子の母親が 普通学級にこだわることで


皮肉なことに


あの子は 誰よりも特別な子になった。



他にも 普通学級に発達障害の子どもが


何人もいたが、



あの子が手厚くされた分、


他の子の支援が疎かになった。



こんな不公平はありえない。



おまけに



他の、支援級が適切だと思われる子が


「あの子が普通学級でOKなら、うちだって」


という母親に押し切られるという、


残念な例も現れる結果となった。






あるとき


私は計算してみた。



介助アシスタントの時給と私の時給、


そして 非常勤講師の時給に



あの子に付く時間を掛け合せてみたのだ。



月額にすると


大卒の初任給の手取り額くらいになった。



税金の無駄遣い とよく言われるけれど


無駄遣いに見えない無駄遣いもある。



あの子にとって


全くプラスにならない、ブルシットジョブに



雇われる私たちでさえ


もう、正当であるふりなんてできなかった。




隠すこともなく


母親への不満を漏らす担任は



あの子が 言葉が出ないだけで


ちゃんと大人の話を聞いていることも



自分のことで 不穏な空気が漂うことを


しっかり理解していることも



気がつかないほど ストレスを溜めていた。





あの子の孤独を


少しも母親は理解していなかった。



みんなができるのに 自分はできないことが


どんどん増えていく。



あんなに みんなにチヤホヤされたのに


いつの間にか ひとりぼっちだ。



あの子が 自分を諦めていくことが


何より切なく、残念だった。



これは 愛情というオブラートに包まれた、


形を変えたネグレクトだ。





あの子は 今、どうしているだろう。




あの子の未来はあの子のものだと


あの母親に届くことを 祈るしかない。