センチメンタル同盟

頭と身体の衰えが一致しない私の老いへの初めの一歩

 嘘


嘘つきは泥棒の始まりと言うけれど…



人間は嘘をつく。


大人も子どもも嘘をつく。



自分を守るための嘘もあるし、


誰かを守るための嘘もある。



だから、嘘がいけない、とは


一概には言えないと私は思っている。



しかし、まるで呼吸をするように


いつもいつも口からでまかせ、というのは


別の話である。



私が働く施設で、そんな女の子がいる。


片付けをしないので注意をすれば、


自分ではない、と人のせいにする。



施設のモノを勝手に持ち出し、


家から持ってきた、自分の物だと主張する。



やってはいけないこと、迷惑なことを


次から次へとやらかして、


大人の注意などどこ吹く風なのだ。



施設のモノが消えるだけでなく、


他の子どもの持ち物も消える。



可愛い鉛筆キャップ、シール、ボールペン、


ちょっとお高いキーホルダー等々…



彼女がやらかすあれこれは


施設にダメージを与えることばかり。



どんなに大人が言葉を尽くしても、


彼女の楽しいゲームは終わらない。



これは単に、性格とか育ち方とか


そんなこととは違う気がする。



たとえば、


万引きの常習犯の多くは


本当にお金がないわけではない。



スリルなのか、達成感なのか、


そういう行為に依存してやめられない。



その女の子も家が貧しいわけでもないし、


甘やかされて、モノは豊富に持っている。



それでも、彼女の周りでモノが消える。



厳しく注意されると、


その場ではもうやらない、と約束するが


翌日にはもうリセットされている。



彼女は明らかに楽しんでいる。


騒ぎを起こしてはその反応を楽しんでいる。



呼吸をするように、間髪入れずに嘘をつく。


その機敏な対応力は大したものである。


感心する。



バレなければセーフ、という彼女の嘘は


私たちの仕事を増やし、混乱させる。



その対応に追われながら、


さらなる被害を未然に防ぐべく、


私たちは常に気が抜けない。



保護者との話し合いも持たれたが、


果たして、どれほど理解されたのか謎だ。



「お母さんは貴女のことを信じてるよ」



何があってもそれを繰り返す母親は、


彼女の何を見て、何を信じているのだろう。



彼女の盗品の数々や、


辻褄の合わない嘘八百を、


どう見て、どう信じているのだろう。



どうしても見たくない、信じたくない現実を


「信じているよ」とオブラートに包んで


自分を守っているようにしか見えない。



このわずか8歳の女の子の巻き起こす嵐に


これからどう対処していけばいいのだろう。



大人も子どもも、周りが皆気づいているのに


彼女と母親だけが、別の世界にいる。



彼女たちを支援してくれる相談機関に


繋がってほしいと願うけれど、



その提案が本当に受け入れられるのかは


わからない。


私たちにできることは、ここまでだ。



子育てには覚悟が必要だ。



世界中を敵に回しても、絶対に味方でいる。


そんな母親の思いは


彼女に正しく伝わるだろうか。



たかが嘘。されど嘘。



私のポンコツな失敗なんて


どうってことないと思えるくらい、


あの子の嘘は破壊力があるのだった。