宿題の終わり ②
弁護士に相談するもっと前、
市の無料法律相談にも出かけた。
無料の相談ではあったが、
その弁護士は誠実に耳を傾けてくれた。
やはり相続放棄をするか、
相続して、分担金を払うかになると言う。
昔からお世話になっている、
地元の金融機関にも相談してみた。
ベテランの融資係は
「うちなら連帯保証人を外しますけどね」
と言った。
亡くなったのであれば、
別の人を連帯保証人に立てて、
亡くなった人を連帯保証人から外す。
どうして外さないのかなぁ、と
不思議そうだった。
その答は簡単で、
①別の連帯保証人が見つからない
②社長がひとりで背負いたくない
③4分の1の負担を3分の1にしたくない
である。
もっともな話だ。
誰が連帯保証人になどなりたいだろう。
4分の1を背負う覚悟はできていたけれど、
相手方に対する信用度は下がっていた。
こんなことは言いたくないけれど、
「女だからって舐めている」と
考えずにはいられない相手方の言い分だ。
間違った対応をして、
息子たちにも迷惑がかかるのは避けたい。
色々探して、弁護士に予約を取り、
相談に出かけた。
私の説明を静かに聞いていた弁護士は、
ホワイトボードを使って説明を始めた。
夫が亡くなったことをきっかけにして
もう会社を閉じる、という話であれば
連帯保証人である以上、
その責任は果たさなければならない。
しかし、会社を存続していくのであれば
会社が負債を返済していくのが普通で、
確実に負債額も減っていく。
4分の1を負担する、などという書面は
交わさない方が良い。
相続放棄も得策ではない。
まずは、連帯保証人を外してもらう方向で
動いていくべきだ、ということだった。
わかりやすい説明で、
企業相手の案件にも長けている。
この弁護士にお願いすることにした。
弁護士が入ることで相手は警戒する。
敵対関係になるのではない、という形で
進めていこうとアドバイスされた。
しかし、残念ながら、
予想通り、弁護士が入ることで
見事に相手は警戒して、敵対関係になった。
連帯保証人を外すなどありえない。
弁護士が驚くほど、頑なに拒否した。
それから、弁護士はあらゆる可能性を探るが
質問状もことごとく無視された。
金融機関にも問い合わせたが、
相手方が認めない限り、連帯保証人は
外せない。相手方も絶対に認めないだろうと
答えたらしい。
弁護士は驚いていた。
簡単に外せると思っていたのだろう。
弁護士は裁判も考えたが、
相手は小さな会社である。資産もない。
こちらにメリットはないと判断し、
結論は、このまま静観する方向になった。
相手方とのやり取りで、
「ものすごく陰険な人だから、
下手に関わらない方が良い」と
弁護士は結論づけたのだった。
陰険な人か…夫の友人でもあるんだけどな。
連帯保証人は外さない、
夫が会社に借金があるから支払え、
という文書だけが弁護士に送られていた。
敵対関係になった、と私でもわかった。
弁護士事務所は常に鍵がかけられている。
相手を確認しないとドアは開けない。
ある意味、怖い仕事なのだろう。
相手方をこれ以上刺激しないで静観する。
相手方に動きがあったら、弁護士に連絡を。
というのが、この結末だった。
そうして、それさえも忘れていたこの夏、
突然、相手方から連絡があり、
連帯保証人を外す、と言う。
連帯保証人を必要としなくなったのだと
金融機関から連絡があったらしい。
はて?
どういうことなんだろう。
新たに借り換えをすることになったのか、
返済のめどがついたのか、
別の誰かが役員になったのか…
詳細はわからない。
とりあえず、送付された書類は
連帯保証人を社長も私たち家族も外すための
申し出書になっている。
ありがたいことではあるが、
疑い深くなっている私は
件の金融機関に連絡して
もう一切、連帯保証人からは免除されるのか
を確認した。
金融機関がそうだと言うから間違いはない。
私と息子たちがサイン、押印すれば
この件は終わる。
社長も連帯保証人から外れる。
それが社長が最も望んだことだろう。
短い電話の最後に社長は
「すみませんでした」と言った。
こちらとしては、その経緯を知りたいが
もう、関わりたくもない。
どちらにしても、もう終わりなのだ。
お金が絡むと人は変わる。
いや、本来の別の一面が現れるのだろう。
相手方が請求して来た、
見たことも聞いたこともない夫の借金は
どうなったのかも謎である。
私は弁護士に10万円の着手金を払い、
結局は見たくなかったものを見て、終わる。
やっと、夫が残した大きな宿題が終わる。
あのね、大変だったよ。
「まぁ、そう言いなさんな」
夫の苦笑いが目に浮かぶようである。

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