旬の人
その高校生は、末期がんの病床にある母を
クールに見下ろしていた。
母ひとり子ひとり。
水商売で子どもを育てて来た母親は
おそらく、子どもより恋愛の比重が重く、
いつもいつも嘘を重ねていた。
賢い少年は、嘘を嘘だとわかっていたが、
気づかぬふりでやり過ごして来た。
末期の母の病状を説明する医師にも
顔色ひとつ変えず、冷静に聞いていた。
優秀な彼には間近に迫る大学受験が大事だ。
病に倒れた母親は、
自分中心の生き方をしてきたから、
大事な受験の前に子どもの邪魔には
なりたくない。
大したことはない、と嘘をつき続けるのだ。
けれど、子どもの頃からずっと嘘ばかりで
それでも、その嘘を呑み込んできた息子は
母の最後の嘘も黙って呑み込む。
息子のために必死で嘘をつき続ける母親と
その母親の愛情を受け止めて騙されたふりを
続ける息子。
これは「コード・ブルー2」のドラマの中での
エピソードだ。
このドラマが好きで、何回も再放送を見て
セリフまで覚えているのに、
また再放送があると見てしまう。
この回のエピソードは忘れられない。
「海よりも深い愛情は親の愛情
それよりももっと深い愛情は子どもの愛情」
昔、新聞で見た、そんな言葉を思い出した。
このドラマは、メインの演者達も素敵だが
患者やその家族を演じる人達も素晴らしい。
この回でいちばん光っていたのは、
やはりこのクールな高校生である。
冷たく見えて、実は母親思い。
ずっと母の自慢であろうとする高校生。
あまりに上手くて印象的だったので、
2回目の再放送で演者の名前を調べた。
その彼は、後にいろんなドラマに登場し、
やっぱり上手くて人を惹きつける。
朝ドラ寅ちゃんの優しい旦那さま、
仲野太賀さんである。
細くて、まだシュッとした顔をしていた、
あのクールな高校生は、
朝ドラでまたまたお茶の間を惹きつけ、
大河ドラマの主役にも決まった。
この人が、どんなふうに主役を演じるのか
とてもとても楽しみなのである。

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